「クーリエ・ジャポン」最終号。紙からデジタル移行は進化なのか?
毎月7〜8冊ほどの雑誌を年間購読していて、
そのうちの2冊が休刊や隔月刊となったという記事をつい先日、書いたばかり。
昨年末、講談社から発行されていた
「COURRiER Japon(クーリエ・ジャポン)」が
2016年2月をもって紙媒体の刊行を終了し、
完全会員制のウェブコンテンツサービスに移行することが発表された。
電子書籍化ではなく、雑誌刊行を廃止するということだ。
10年前に社内公募で創刊されたクーリエ・ジャポンは
世界中の政治経済や国際動向、ムーブメントなどを広く伝える雑誌で、
ジャポンの名のとおりフランスを代表する週刊誌
「クーリエ・アンテルナショナル」と提携した記事も多い。
日本で世界経済などの雑誌を読もうと思うと
今まではキング・オブ・アメリカ視点のものが多かった中で、
クーリエ・ジャポンはどちらかといえば「ヨーロッパから見た世界」の記事内容で、
海外から見た視点で日本のことを紹介する記事などは、
まるで黄金の国ジパングの東方見聞録を読んでいるようで
「世界から日本はこう見えているのか!」と新しい発見だった。
日本で暮らしているとわかり得ない、ヨーロッパやアメリカだけでなく
ロシア、中国、南米や北欧、アフリカや東南アジアの生活様式や考え方など
興味深い記事が大判の写真やセンスの良いイラストレーション付きで
たくさん読めて、記事内容のセンスも良く好きな雑誌だ。
そのレイアウトデザインもあえて左開き縦組み文字の日本様式にこだわり、
世界を伝える記事なのにどこか和を感じさせるシンプルでクールな
レイアウトで、フランスっぽいというか、どこか禅のような香りが漂っている。
紙媒体の無線とじ130頁オールカラーの雑誌が800円(税込)。
税抜だと741円。
手触りの良いマットな質感の高級紙を使い、
時間や行間は比較的ゆったりと詰め込まず贅沢に紙面を使い、
余白を活かしたレイアウトは優雅だ。
気に入っているだけに、いろいろとツッコミ所はある。
2016年3月1日からスタートする会員制のウェブコンテンツサービスの
会員価格は月額980円。税込で1,058円。デジタルになって
「編集、デザイン、印刷、製本、配送、保管」の制作予算が無くなった上で、
税込価格で現在より約250円値上げされる。
その価値はあるのだろうか。
たとえば近所にお気に入りのカフェがあるとして。
席数の少ない店内はゆったりとした時間が流れていて
シンプルで居心地の良いソファにテーブル、
インテリアも好みでメニューは少ないがコーヒーは上質、
サービスで腕の立つ店員が素敵なラテアートを描いてくれる。
少し値段は高いけど、そんなとても好きなカフェが
経営方針を変更し、形態を変えることになったという。
「移転してファミリー向けの定額食べ放題バイキング形式のカフェにします」
「ファミリー席がたくさんあるオオバコ店で、メニューは日替わり。
値段は安くて味はそこそこ、良かったら来てね!」
って言われた気分だ。しかも、さらっと250円値上げします、って。
定額食べ放題は求めていない。
けっしてファミリー向けの店が悪いというのではなくて、
成城石井を三越伊勢丹では無くローソンが買収したような、違和感。
毎月紙媒体の雑誌を定期購読していた読者層は今のご時世
なかなか熱心なファンだと思うのだけど、特に何か特典があるわけでは無く
(定期購読期間終了まで無料でウェブコンテンツにアクセスできるそうだ)
引き続き購読してくださいね! という姿勢があまり感じられない。
あえて、なんだろうけど、最終号において白い表紙は寂しすぎる。
小さく扉はあるけど、言うなればデジタルへ向かう道、扉、その向こうの世界を表現してほしかった。
今号が最終号でデジタルへ移行するという告知も、誌面中にも探さないと見つけられないくらい。
1ページと巻末に少しお知らせがあるだけだ。
既存の読者をデジタルに連れて行くより、この読者層が愛想を尽かして去って行ったとしても、
編集部(もしくは営業部)は新たなデジタル指向の読者層を開拓することを重視しているのかもしれない。
形態を変えるのだからその方針は間違ってはいないけど。
個人的には、新聞紙は紙であることに意味があると考えており、
タブレットで指をせわしなく動かして新聞を読もうとは思わない。
同様にクーリエ・ジャポンは紙媒体の雑誌であることに価値を感じていたので
既にWEB上には海外記事コンテンツはたくさんあり、
今の800円から1,058円に値上がりをしてまで見たいとは思えない。
定期購読期間終了まで無料で閲覧できるので、
しばらく試してみて、よほど今よりも満足のできる
サービスであれば、わからないが、今と同じでは価値は無いと考える。
記事の数を増やすとか、最新のニュースをすぐに反映できるとか。
それはもう既存のニュースサイトでたくさんあるし、
すでに頭打ち状態と言われているバイラルメディアとどこが違うのか。
デジタル媒体はまだまだ過渡期だ。そして立ち上がった企画は早期の結果を求められる。
今まで専門知識を駆使して編集者とデザイナーで雑誌を作っていたものを、
利益追求をした結果、だんだんライターとシステムエンジニアになりかねない。
カメラマンにしてもタイトルページなどはドーンと誌面見開きの大判写真を使っていたのが、
WEBレイアウトの特性上、記事に添える程度のカット写真1点か2点で良くなり、
その結果無難なレンポジや素材写真になるのがオチだろう。
速報性はなくとも、記事数に限りはあっても、
厳選された良質の記事をソファに腰掛けてゆったり読むのが良かった。
紙媒体の雑誌の運営が非常に厳しいことは承知している。
「COURRiER Japon(クーリエ・ジャポン)」は
誌面広告にもおそらくこだわりやルールがあって、
国際的な企業の広告や航空会社、ホテルなど高級感のある
広告しか掲載されていなかった。しかも巻頭と巻末と、
あとは裏表紙のみだ。
雑誌はいまや広告で成り立っているといわれる中で、
非常に苦しい運営だったことは想像に難くない。
毎年次々に有力誌が休刊になる中で、
時代の流れなのかも知れないけれど、こうして紙媒体の雑誌が
ひとつ休刊になるたびに何かとても大切なものを
私たちは失っていっているように思える。
自分もデジタルの中で仕事をしているからこそ感じる。
写植や版下はMacやWindowsの機能向上と共に時代の流れでデジタルへ置き換わり、
最近ではもう反射原稿で入稿することはまず無く、完全にデータ入稿だ。
だけど何でもかんでもデジタルに移行するのが正しいのか。
逆に、あえて紙だからこそ、将来生き残れるということは無いのか。
特に何か強い訴求がある、コンセプトを掲げたような誌面は。
クーリエ・ジャポンのような雑誌にはぜひ紙で残ってほしかった。
デジタル移行が本当に正当な流れならばとりあえず紙媒体と同時進行すべきで、
あまりにもカンタンに紙を辞めてしまったように感じる。
横組みベースのデジタル媒体、WEBの記事コラムにイラストレーションが入る機会は
WEBは横組みなので、和訳したテキストと写真をフォーマットに流し込む。
どちらかというとWEBの知識が必要で、デザイナーじゃ無いとできない作業では無い。
速報性と記事量が売りになるのは数あるニュースサイトと同じだろう。
紙媒体に比べて予算がデジタルの場合極端に少ないということもある。
他の休刊誌と違い一括で払っている年間購読料の返金措置はないため
(10月に年間契約更新してすぐにこの発表があったので少しもやっとする)、
閲覧可能な期間中は見てみるつもりだけど、
たとえまったく同じ記事内容だったとしても
本や雑誌を読むのとネットを見るのとは行為がまるで違う。
教養を得ているというよりも、情報を得ているようになってしまう。
またひとつ、センスの良い雑誌が去ってしまった。